月の記録 第47 話


「なに!?」
「シャルルが、ナナリーを皇帝にと?」

皇位継承権19位、とても皇帝になれるような位置にはいなかったナナリー。
確かに、その才能はシュナイゼルに次ぐと言われており、その結果オデュッセウスと共に、ブリタニアの代表として行動するようにはなっているが、それだけを理由に皇帝とするならば、もっとも才能のあるシュナイゼルを指名すべきだろう。

「何故、シュナイゼル兄上ではなくナナリーを・・・」

凡庸な第一皇子より、才能あふれる宰相である第二皇子が選ばれるというなら解るのにと、コーネリアは眉を寄せた。しかも、男ではなく女。女帝などブリタニアの歴史でも数えるほどしかいない。

「・・・ナナリーはまだ若いく、皇位継承権も低い。公務もさほどこなしたわけではないですが、私から見ても恐ろしいほどに、ナナリーは為政者としての才能を持っている。皇帝として、人の上に立つ器を持っているというべきか、彼女は驚くほど自然にふるまう。あれはまるで・・・いや、流石に考え過ぎか」

シュナイゼルは、憶測で今話すべきではないと口をつぐんだ。
シュナイゼルが何を言わんとしていたのかはわからないが、ナナリーに関しては同じような意見を持つコーネリアが続ける。

「ナナリーは私から見ても才能の塊ではあるな。本人の希望で幼いころより私が剣の手ほどきをしているし、KMFの騎乗技術など、まるで」

コーネリアの言葉を、もういいわとマリアンヌは制した。

「貴方達の意見を今聞く暇はないの。・・・つまり、シャルルは深手を追った自分ではもう皇帝として立つ事は出来ないから、ナナリーをと言ったわけね」

無能な兄とセットにされがちな妹姫だが、ナナリー単独で考えるならば、まさに文武両道。幼いころよりどれほどの英才教育が施されてきたのか、マリアンヌはここに居る誰よりも知っているのだから。

「はい。まだ正式発表はされていませんが」
「でも、ビスマルクがシャルルの言葉として言ったのだから、まず間違いなくナナリーが皇帝となるわ・・・このタイミングで・・・」

マリアンヌは唇を噛んだ。
ナナリーを皇帝にと認めない者は山ほどいるだろう。
正式な発表がされる前にと考える馬鹿は出てくる。
特に、第一皇子と第一皇女の陣営は、母親も高位な貴族ということ、そして生まれが早いことから、間違いなくナナリーが皇帝となることに反発し、自分の主を皇帝にと考え、動くだろう。
シュナイゼルとコーネリアは、別に自分が皇帝にならなくてもいい。才のある者が皇帝になればいい。ただ、自分の意に沿わない者なら引きずり下ろすだろうが、二人共幼い頃からナナリーに英才教育を施している側の人間だ。ナナリーの才能をよく知っている二人は、おそらくナナリーの後ろ盾となるだろう。問題は、他の兄弟たちだ。
シャルルが再び皇帝として玉座に戻らないかぎり・・・皇位継承権争いが始まる。避けることは出来ないだろう。

「幸い、あの子は今あの船の中。馬鹿な連中は手が出せないわ」

テロリストに囚われた事で、今すぐその命を失う危険性は回避しているが、救い出した瞬間から、暗殺者が彼女の命を狙うことになる。

「テロリストで手が離せないというのに、皇位継承権争いまで・・・」

コーネリアは、ユーフェミアが巻き込まれるかもしれないと、唇を噛み締めた。

「マリアンヌ様、今は目の前の敵を」

継承権争いとテロリスト。
今優先されるべきは目の前のテロリストであって、本国のお家騒動ではない。
大体、心配なのは国内の事だけではない。一番の問題は、国外だ。
このシャルル暗殺は間違いなくテロリストの手によるもので、既に各国にこの情報は流れていた。いや、テロリストの手によって流されていた。鉄壁の警備を誇るブリタニア宮殿内に忍び込み、ナイトオブワンと、ナイトオブトゥエルブ、そしてインペリアルガードの目の前でシャルル皇帝の暗殺は行われた。その時に、ナイトオブワンを含む護衛たちも負傷し、犯人を取り逃がしたことも。それは、自分たちの国にも同じようにテロリストが攻めてきても、手も足も出ない事を示していた。
なぜこのタイミングでブリタニアの皇帝を狙ったのだろうか。それは考えなくてもわかることだった。ブリタニアだけが、国の頭首である皇帝ではなく、その子どもたちが出席していたからだ。だから、このような手をテロリストは使ったのだろう。となれば、次なる目的は各国首相の命か、首相たちは巻き込まれただけで、狙いはブリタニアの血族だけなのか。もしブリタニアが狙いならば、交渉するべきだと各国はざわめいていた。

そんな各国の動きなどシュナイゼルは予想しており、急がなければ各国の標的になるとマリアンヌを後押しした。

「解っているわ。まずはここを片付けてしまいましょう」

ブリタニア軍が動こうとしたその時、テロリストもまた動き出した。

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